ともほ じゃーなる

まいにち の ものがたり

ミャンマー(2012年調査)

・データの未整備や信頼性の欠如というケースは途上国ではしばしば見られる。ミャンマーも例外ではなく経済データは未整備で、また、データの信頼性にも問題が残る点が多い。

 

IMF のデータによれば、ミャンマーの実質GDP 成長率は、リーマンショックによる金融危機が始まった2008 年に鈍化し、その後、概ね10%前後の成長となっている。2008 年に大きく成長率が落ち込んだのは高インフレによる需要減と言われている。インフレが急上昇した背景には、財政赤字を紙幣増刷でファイナンスしていた影響と見られている。その後、財政赤字国債発行によりファイナンスするように変更したことでインフレ体質は徐々に改善傾向に向かっているとされている。

・天然資源が豊富な国で、西はインド・バングラディッシュ、北は中国、南はタイ、東はカンボジアと繋がっており、輸出製品さえ十分に生産できれば、経済発展する素地は十分ある。

・また、南には港を要しているため、インドネシア等への輸出も十分考  えられる。

・敬虔な仏教徒がほとんどであるため治安はよく、勉学熱心な国民であるため、識字率が高い。また大変な親日国であるため、日系企業が海外進出するため

の社会環境は抜群である。

・ただ、電力供給不安などインフラ整備が不十分で、体力のない企業が進出できる国ではない。

・また、日系企業もここ数年になり進出をし始めたところであり、既に進出しているアパレル製造以外の業種が進出しても、ビジネスパートナーが見つからない可能性がある。

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ヒアリング 1 政府関係機関職員 

ヒアリング概要 ミャンマーの現状(経済、政治、その他)について

 

【投資先としてのミャンマーの魅力】

・なぜ今、ミャンマーなのか。周辺の他国の状況をみると、それがわかる。

①中国の場合

3つのネックがある。

エネルギー問題:中国は日本の8.7倍のエネルギーを使用。慢性的な不足が懸念。

水 不 足 問 題 :揚子江水系にホアン湖があるが、一滴も水を流さない日が年間

        100日を超えている。工業用水、農業用水でほとんど使ってしま

        っている。水も汚染されている。

人 口 問 題:2015年に労働人口がピークに達した後、少子高齢化が急速に

        進む。労働者不足と消費減退から産業が衰退して経済が低迷して

        いく懸念がある。

②タイの場合

労働賃金は、バンコクで2012年1月には450~500ドルになる見込み。ミャンマーから人口の約1割(500万人程度)が出稼ぎとしてタイに来ているが、その中で失業率は1%を切っている。完全な労働者不足。下請け企業などが進出して事業できる国ではない。

インドネシアの場合

自動車工場のあるジャカルタの東、東カラワン地区の平均給与は、一人当たりGDP3,000ドル。しかし10月に大規模労働争議があり、労働者全体の約50%にあたる非正規労働者を正規労働者へ雇い直せという要求が出された。仮に受け入れたら、300~350ドル賃金が上昇する。さらにジャカルタ地区は、もう立地する場所がない。高速道路は大渋滞でジャストインタイムは不可能。この状態では進出するメリットが小さい。

ベトナムの場合

ベトナムは、ハノイが大手製造業。ホーチミンが繊維、食品、商業が中心。

ハノイ最低賃金は100ドルであるが、キャノンの工場では200ドルを超えている。キャノンは、去年だけでベースアップ3回もした。ストライキを打たれて200ドルを越えてしまった。その中、サムソンがスマホ事業拡大のために賃金を250ドルにして労働者を確保した。賃金が急激に上がる状況の中、安価な労働者確保の面から進出メリットは小さい。

カンボジアの場合

電気代が高い。ベトナムの3倍。

ポルポトの残虐行為の影響で40~50代の人口が少なく、中間管理職としての優秀な人材がいない。カンボジアで中間管理職として雇われているのは、マレーシアやタイ人材。

陸路での輸送しか交通手段がない。コンテナ基地のシアヌークビルは設備が小さく、大型コンテナの輸出ができない。結果、輸送コストが高くので進出メリットは小さい。

⑥フィリピンの場合

とにかく治安が悪い。ゲリラ、火山、政情不安など、ネガティブ要因が多すぎる。

 

・結論として、teir2、3の企業にとって、労働力の確保の面からもミャンマーはよい環境にある。ミャンマーの縫製工場の給料は70~80ドルだが、低賃金なのが魅力ではない。優秀な労働力が確実に確保できる国であることが一番の魅力である。

・また、フィリピン、マレーシア、シンガポールの都市部を除けば、東南アジアで英語のできる唯一の国。タイ、インドネシアインドネシアは、街で英語は通用しない。

識字率も92%と、東南アジアでは一番高い。バングラディッシュは賃金が安いが、識字率が低いので、インストラクションを口で説明しないといけない。ベトナムで日本語検定に受かるのは、年に20名程度だが、ミャンマーでは、100人近くが受かる。ベトナムは給料が5%アップするとの話があると、17%の人が転職を希望するというデータがあり、ベトナムでは頻繁に人が入れ替わる。ミャンマーでは、そのような事は滅多にない。

 

ミャンマーの生活水準について】

IMFのデータを見た後、実際にミャンマーを視察したら、思っているより生活が豊かに見える。ミャンマーに関してだけは、IMFが出す数値があてにならない。結論から言うと、IMFの数値には、ミャンマー特有の要素が加味されていない。

・貿易統計では、2010年、ミャンマーがタイから輸入したのは7億ドルとなっているが、タイがミャンマーに輸出したのは21億ドルとなっている。数値が3倍違う。また、中国人は関税を逃れるために密輸している。これらを加味すると、実際には30億ドルぐらいの輸入があると言われている。

貿易赤字国であるのに、為替はチャット高になっている。考えられるのは、タイに出稼ぎに行っている500万人のミャンマー人は、月額200ドル(6000バーツ)以上もらっていて、そのお金を地下銀行を通じて100ドルずつミャンマーに送金したとしたら、年間60億ドルになる。地下銀行での送金は、統計に出てこないので、数値にはならないが、これが理由だと考えると、チャット高の理由がわかる。

 

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ミャンマー経済・産業について】

ミャンマーは年間雨量が多く、農業が盛んである。沢山の河川もあり、すべての農作物は無農薬で作られている。日本などの先進国が、有機野菜として高く評価をして高く購入してあげる形が、近代的農業を導入するより良いだろう。

・雨量の多い南部は、ユウカリやアカシャマングースが1年で収穫できてしまう。野生のコンニャクがとれ、2毛、3毛作が可能である。マンダリンにいくと、2~3毛作、裏作で大豆もやっている。そばを作って、そば焼酎を手がけている企業もある。それより上に行くと、アッサム茶、中国茶がある。ここの茶は、木が密集していないため、病虫害が少ないため農薬が少なくてすむ。日本のお茶と大きな違いである。

・乾燥している北部高原地帯は、東南アジアで一番の酪農地帯で、年間140万トンの乳製品を生産している。その多くがコンデンスミルク(加糖牛乳)になっている。

 

【電力不足について】

・この国の発電能力は320万キロワット程度。そのうち、7割が水力発電。そのうち6割ぐらいを中国に輸出しなければならない。ダム開発に協力してもらった見返りとしてである。ミャンマー国民が使える電気は180万キロワット程度になる。つまり、作った電気の26%程度が国内で使えるような事情がある。これは、都市部で消費してしまう電気量である。だから海外企業はミャンマー進出に慎重になっている。

・しかし、ヤンゴン地区では、10万キロワットの発電プロジェクトが進んでおり、来年、再来年、どんどん発電所が増えていく。今現在でも、そんなに深刻でないのが現状。ただ、電気高炉やアルミのダイキャストなどは無理。それ以外は、大概できる状況にある。

・下請け企業がヤンゴンに工場を作り、ベトナム、タイ、インドネシアのメーカーに輸出すれば、運賃は安いし、商機はある。

 

【政情不安について】

・政情不安だが、欧米が経済制裁を解除したのは、ミャンマー民主化に動いてきたからではない。経済制裁を解除したいのは、米英であり、ミャンマー民主化を進めてもらうようにお願いしている。それが正しい捉え方だ。なぜ、経済制裁を解く必要があるか。このままだとミャンマーにある豊富な地下資源を中国に奪われてしまうからである。また、中国がインド洋に出るための安全な道を与えてしまうことになるからである。

・ティンセンイ大統領は、詰め将棋のように、着々と改革を進めている。欧米もティンセイン大統領の悪口を書かない。

・現政権で改革が進んでいるため、NLDが内部分裂しはじめている。この状態ではアウンサンスーチー氏が大統領にはなれない。そういう状況ができつつある。また、スーチー氏のNLD内での支持率は、30%程度といわれている。スーチー氏も、2015年の選挙の年には、70歳。NLDが大勝することもない。現政権で保守派が盛り返すこともない。ミャンマーは、着々と政情安定に向かって進んでいる。もう、この流れは変わらない。こうした状況から、ミャンマーに今進出するのは、間違ったタイミングではない。

・法整備が未成熟だという声があるが、法律は現実の後追いで出来るもの。グレーな部分が多いからこそ、新しいことができるという発想が大事。ミャンマーでは、行政規制、行政からの厳しい窓口指導はある。それは高度成長期の日本も同じであった。

 

【その他】

・日本人とミャンマー人は不思議な類似点がある。月にウサギがいるというのは、東南アジアではミャンマーだけ。この国は親日インドネシアミャンマーで、日本人が嫌いという人がいたら、珍しい。この国の教科書には、日本のおかげで独立できたと書いてある。

・この国は民度が高い。携帯電話や財布を忘れても必ず見つかる。日本よりモラルが良い。この地で略奪行為があった記録がない。小乗仏教の教えで、困った人には施しをする。

・タイなどで労働力が確保できない企業は、ミャンマーへの進出を検討している。スズキが来年4月から組み立てラインを稼動させる。ミャンマーでは、シートなどの縫製部門を先にやって、重機部門は後回しにする計画。

 

  市内視察結果 

IMF統計では、ミャンマーの一人当たりGDPは800ドル程度で、タイやベトナムに比べると、経済力は弱い。しかし、市内に入ると自動車が走り回り、店には物があふれ帰り、綺麗なショッピングセンターまでできている。実体経済を確認するには、フィールドワークが必要と判断し、現地コーディネーターの協力で、市内視察を敢行した。

  

庶民向けショッピングセンター(ユザナプラザ)

・ファッション、日用品、電化製品、携帯・スマホタブレットと、品揃えは日本のショッピングセンターと変わりはない。平日であったが、多くの若者が買い物に来ていた。面白いのは、店員も客も警備員も、すべて20代~30代。若い人口が多い国ならではの活気を感じる。

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・消費意欲も旺盛であるが、タイやインドネシアと違って、ミャンマー国民は貯蓄をする傾向を持つ。店頭で働く女性は、昼食に自宅から持ってきた弁当を食べている。堅実な国民性の表れだろう。

・販売されている価格であるが、シューズ類は500円~2000円の値段がつけられている。服は2000円前後が多い。一人当たりGDPが800ドルの国とは思えない経済水準である。ヤンゴン市内で働く人の月収は5万円程度(店員、現地サラリーマンへの聞き取り結果)。電化製品は中国製、韓国製が主流であるが、日本製への憧れはある。ミャンマーでは、日本製品の流通量が少なく高額であるため、入手するのが困難とのことである。

 

庶民~ミドルアッパー層向けショッピングセンター(タウウィンセンター)

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・こちらのショッピングセンターは、中間層から少し裕福な世帯を対象にしており、品揃えも多少品質のよいものを置いている。店内は建物の中心付近にエスカレーターがあり、それを導線に各階へ客は移動する。1階は化粧品など女性向けコーナー、2、3階は婦人服、雑貨、4階は男性服、男性向け雑貨、5階は本屋にイベントホールと、日本の典型的なショッピングセンターと同じ作りになっている。

・価格帯は、庶民向けショッピングセンターと同じか、1~2割高になっている。

・このショッピングセンターは、女性向け商品が充実している。特に1階の化粧品フロアーは、日本のデパートと同じぐらい多くのテナントが入居しており、来店者の数も多かった。

・ここの化粧品は、シンガポール系資本が多いためか、あまり日本ブランドを見かけることはなかった。しかし、一部、「SK-Ⅱ」を日本から直接輸入して販売している店舗もあった。

・店員の話では、SK-Ⅱは1本1万円以上する高級化粧品として扱っており、ヤンゴン市民にとって気軽に買えるものではない。しかし、日本の化粧品への人気は高く、高額なわりに結構売れているとのことだった。人気の理由は、高品質と安全・安心であること。直接輸入している理由は、店員にはわからなかったが、シンガポール経由で入手できる品物ではなかったようだ。

 

ハイクラス向けショッピングセンター(ジャクソンスクウェアー)

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・最近(2012年調査時点)オープンしたジャクソンスクウェアーというショッピングセンターを視察した。ここの開発もシンガポール資本とのこと。ミャンマーで活気ある場所の多くは、華僑が絡んでいるようだ。

・中に入って驚いたのが、無料Wi-Fiが使える環境にあったことだ。これまでミャンマーの通信事情は、インターネットが使える場所が限られたり、ネットの利用には政府への登録申請が必要だったり、外国の携帯電話でローミングができなかったりと、様々な障害があった。しかし、テインセイン政権の民主化改革が進んだおかげで、一般市民も普通にインターネットが使えるようになった(信じられない話だが、数年前まではGoogleアカウントを作るのに、政府への申請が必要だった)。

・このショッピングセンターには、規模こそ小さいが、タイで見かけるミドルクラスのテナントが入っている。また、アップルの正規取り扱い店も入っていて驚いた。また、Lenovo取扱店も入っていた。金額はLenovoで6万~8万円ぐらいで、ヤンゴン市民にとっては気軽に買えるものではないが、多くの客が訪れていた。

・このショッピングセンターには、ダイソーが入っている。ここにもダイソーかと、正直驚いてしまった。商品は全て日本語のままである。内容もわからないのに買う客などいるのかと疑問だったが、買い物客へ質問したところ、「給料日にダイソーで、1品だけ日本ブランド品を買うのが、ヤンゴン市民の楽しみなのだ」といった。通訳を担当してくれたミョーミンさんによると、ヤンゴン市民は、本当は日本製品を買いたいのだが高くて買えないため、結果、中国製や韓国製を買っている。しかし、ダイソーは庶民が唯一といっていいほど、気軽に日本ブランド品が買える場所なので人気が高いとのことだった。

 

≪ヒアリング調査及び市内視察から判明した事≫

 

・長期間にわたる米国等の経済制裁の影響で、街には老朽化した建物や30年以上前に生産された自動車が現役で使用されている。華僑、韓国、インド資本が入った地域は、比較的新しい建物が多く生活水準も悪くない。国民は総じて争いごとを好まないため、街を歩く人は日本人の雰囲気に似ている。

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・若年の人口が多く消費意欲も高いため、消費市場としての潜在力は高い。市内視察したショッピングマートでは、洋服などファッション関連商品、靴、時計、電化製品、携帯電話、スマートフォンタブレットPC、ラップトップPCなどで溢れている。日本で売られているグレードより低いが、たいていの種類の商品がそろう。シネマコンプレックスや無料Wi-FIもある。

・こうした状況から、今の段階から、ミャンマーに進出して地域に根差し、ミャンマーの成長とともに事業を大きくしていく選択はありえると考える。

・この国は識字率が高い。街を歩いていると、仏像を売る露天の子供(小学校高学年~中学生ぐらい)が大人が読むのと同じ新聞を読む光景を目にした。これは識字率が高いだけでなく、書いている内容を理解しているということである。この国の人材の優秀さがわかる一面といえる。ミャンマーに進出した日系アパレル企業が、現地従業員の教育に翻訳された日本のマニュアルを使ったところ、従業員はすぐに仕事を覚えたとの話がある。タイやベトナムでは、真逆の話を聞いたが、ミャンマーは周辺国に比べて従業員教育が簡単なのかもしれない。

・街はお世辞にも綺麗とは言いがたい。しかし、不思議なことにゴミが落ちていない。ジェトロで伺ったところ、小乗仏教の影響だろうとのことである。これほど民度が高い国はない。

ミャンマーへの投資を行う環境(条件)には不透明さが多い。ミャンマー視察をした日本のビジネスマンに話を聞くと、ほとんどの人は投資できるのはまだ先だという。IMF統計が役に立たないほど適正な経済情報が開示がされていない。そういった中で企業が投資できるかといえば、かなり覚悟がいるだろう。しかし、国民は優秀であり労働力も豊富。大変な親日国家であり、考え方も風習も似ている。この国なら、東南アジアのベストパートナー国として、日本は一緒に発展していくことが出来るだろう。