ともほ じゃーなる

まいにち の ものがたり

ベトナム(2012年調査)

ベトナムは、これまで2回の投資ブームがあった。1980年代後半のドイモイ(斬新)政策以降、西側諸国との関係改善に端を発した第一次ベトナム投資ブーム、アジア通貨危機からの回復に端を発した2000年代後半の第二次ベトナム投資ブームである。そして、今、リーマンショックからの回復基調にのった投資ブームが再び起こっているといわれている。

 

ベトナムの人口は、8700万人とASEANでは、インドネシア、フィリピンに次ぐ規模で、平均年齢が27歳前後と、非常に若いことが特徴である。そのため、人件費が中国の半分程度であり、チャイナプラスワンの候補地として、脚光を浴びている国である。

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・経済は、一人当たりGDPが1300ドルを超えており、ホーチミンに至っては、3400ドルまで上昇している。ジェトロの報告書では、世帯可処分所得が5,000~35,000ドルとなる中間所得層が、2020年に人口の59%にあたる5,600万人になると予測されており、製造拠点としての魅力に加え、内需にも期待できる魅力ある国である。

日本との関係は良好で、親日国である。また、仏教国であることから、文化的にも親和性の高い部分がある。

日本は、ベトナムにとって最大のODA支援国であり、また外資系企業の累計投資額でもトップの座にある。現在、ホーチミン市初となる地下鉄工事が始まったが、日本のODA事業である。

しかし、韓国企業の積極的な進出攻勢によるK-POP等の浸透で、ベトナムでの日本の存在感は薄くなっているとの声が聞かれる。確かに市内には韓国の電化製品があふれ、CMではKARAを良く見かけた。たしかに日本の影は薄い。ただ、食やアニメなど日本のサブカルチャーに対して若者は大変興味を持っており、こういう部分からの日本ブランドの浸透を図っていくことが、当面取り組むべき課題といえる。

 

≪ 調査結果 ≫企業ヒアリングの内容は、企業の活動情報を含んでいるため、取扱注意とする。

 

ヒアリング 1 政府系機関企業支援担当者

ヒアリング概要 ベトナム全般及び、消費市場の動き

 

ベトナム経済について】

ベトナム経済は不況の中にある。インフレも進み、経営環境としてはよくない。

リーマンショックまでは、不動産がバブル景気の時のように価格が上昇していたが、リーマンショック後に急落、そこから上昇していない。ベトナムの役人は、自分の資産価値をあげたいので、不動産の高騰を望んでいるようだ。

公共工事では、ホーチミン初となる地下鉄工事が始まった。地下鉄の駅には地下街も付設される予定である。この工事は、日本のODAであり、住友商事が受注している。

・この他に、タンソンニャット空港(ホーチミン)の移転計画がある。現在の場所は、ホーチミン中心地から便利なところにあるが、もう拡張できるスペースがない状態である。空港の真横に住宅地ができつつあるような状態である。新しい空港は、ホーチミンから東南に移動して、車で40分程度かかる地域といわれている。

ホーチミンは、ハノイより経済発展している。経済規模は、工業生産額がホーチミンハノイの2倍。一人当たりGDPでは、ホーチミンは3,000ドル超。実感としては、もっと高い。ハノイは2,000ドル。

・この国の経済統計は、全般的に不透明な部分が多い。事業者がまじめに税務署へ届けているかどうか怪しい。

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【消費市場について】

・2015年に、飲食業への外資系企業の出資規制が解かれる予定。ただ、この国の規制、法解釈は曖昧である。WHOでの取り決めで、飲食産業の参入は、ホテル内はOK、ホテル外は2015年4月まで規制がある。では、それ以降開放されることが確実なのかといえば、わからない。

・法制度の解釈は、市政府の役人の「裁量」で決まってくる。市政府と「パイプのある企業」だと、進出もしやすいだろう。

ベトナム政府としては、法律・規則などの解釈を明確にしたくないのかもしれない。自分たちに裁量を残しておきたいのだろう。

ベトナムの消費市場で成功するには、単価は低くて地元に根付く商売が良い。

・幼稚園、歯医者、塾が流行っている。公文はいたるところにある。ベトナムの公文はシンガポール経由で投資されている。

ベトナム人にとって日本から輸入される商品への馴染みは薄い。ただ現地で日系企業が生産する商品には、馴染みが深い。成功例は、エースコック。現地工場で現地向けのカップめんを製造、即席麺市場の半分のシェアを握っている。

 

【国民性等について】

ベトナム南部の人は、ホーチミンに住みたい人が多い。そのため、政府からの土地使用権利を取得した人は、なかなか手放さない。大型公共工事などの話があると、用地確保に困る。簡単に立ち退かない。政府も中国みたいに強制退去などはしない。そのため、用地コストがかかる。文化的にも先祖代々の土地を手放したくないという考え方もある。

ベトナムの北部、南部は地域性、文化面に大きな違いを持っている。ハノイ(北部)は南部(ホーチミン)を田舎者とみなし、ホーチミン出身者はハノイで就職したがらない。

ホーチミンの住民は、伝統的にお金を銀行に預けない傾向がある。資産は「金」で管理する傾向が見られる。インフレが激しいため紙幣価値は自然に目減りしていくため、「金」の人気が高い。

 

日系企業の動向について】

ベトナム視察は、年々増加している。進出の理由を聞くと、チャイナリスクが原因ではない。商社や機械系メーカーなどに加え、サービス系産業の視察も最近増えている。

・2012年3月に、飲食等のサービス産業によるベトナム視察ツアーを敢行した。参加企業の反応は、ベトナムの経済・社会状況が良くわかったという意見が多かったが、「進出にはまだ早い」「わからないことが多すぎる」などの意見も多かった。

日系企業が進出する時に一番困るのは、ベトナム当局との調整。調整は、大体困難を極める。

・この国は、地方役員の権限が強い。法律通りに物事が進まない。進出には信頼出来る現地のパートナーの確保が重要だろう。

・工業団地の整備が進んでいない。それもあり、産業の裾野が狭い。そのため調達可能な部材が限られ、足りない物は他国から輸入するケースがみられる。これが、この国の産業の問題点である。こういう状態が長く続いているので、輸入超過の状態に至っている。

 

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ヒアリング 2 現地IT関連企業

ヒアリング概要 ベトナムのサービス産業全般について

 

【飲食産業について】

ベトナムは日本食ブーム。日本食チェーンが沢山できており、ベトナム人客でにぎわっている店もある。

・食品産業は、現地人向けの商品を、現地の工場でつくって売る。そういう形でないと受け入れられない。エースコック日清食品、ヤクルトなどは、そうやってベトナム市場に浸透してきた。

・食品を作って売るなら、コンビニのように販売網を持つ日系企業と、最初のうちから組むやり方がよい。

・健康食品については、サプリメントが流行りはじめている。すでに浸透しているのは、「アムウェイ」。ニュースキンも入ってきている。また、昨年から今年にかけて日系健康食品関係企業からの相談が増えている。

 

【生活関連産業について】

ダスキンのような家事代行サービスが参入する余地は十分にある。また、外食が普通なので、外食産業も十分事業展開できる市場であるし、実際、参入は多い。

ダイソーも参入している。大手企業は、代理人をたてて、その人を社長にして法人を設立し、フランチャイズ方式で参入している。ミニストップ合弁会社を作って参入している。

・学習塾産業も盛んになっている。日本の公文も入ってきている。現在、規制があるので参入リスクが多いが、それでも若い人口を沢山かかえるベトナム市場でメジャーになるべく、多くの企業が参入してきている。

 

労働市場について】

・タイほどではないが、労働賃金はあがっている。ただ、国内はインフレが落ちついており、賃金争議はあまりない。そもそも、ベトナム人は従来おとなしいので、昔は労働争議がなかった。しかし、最近はアジテーターが入ってきて、労働争議を焚きつけている。アジテーターは労働争議を焚きつけ、賃金があがったら組合費のうちの何パーセントかをもって行く。みんなそういう事情を知り、最近はアジテーターを相手にしなくなった。

 

ベトナム市場での日本について】

・日本の影響力が薄れている。韓国、中国、シンガポール、タイは影響力があり、これらの国の製造品が浸透している。ODAでは、日本文化を浸透させることは難しい。そのため、他の国が持っていないサブカルチャーで、日本ブランドのリメイキングをしていく、それが大切なのではないかと考えている。

 

【進出に際して注意する点について】

ベトナムへの進出は、まずは日系企業を相手にした事業から始めることがよい。いきなりマーケットに進出しても、商売ができるかわからない。また、物を調達するにしても、知り合いがいないなかで調達することは、困難である。

・現地での販売代理店を見つけること。原材料調達先を見つけること。委託先を見つけること。拠点を作ること。この4カテゴリーを最低クリアーして進出すれば、何とかなる。

・最近、日本でベトナム進出をネタに商売するコンサルタントが増えている。日本企業に注意喚起が必要。企業を支援する各窓口機関が連携した周知等の取組が必要である。

 

ヒアリング 3 日系コンビニエンスストア

ヒアリング概要 ベトナム消費市場について

 

ベトナムの消費市場】

・小売は、国の発展度によって出店のタイミングが決まる。量販店は一人当たりGDPが1,000ドルを超えた時点。コンビニは3,000ドル。ホーチミンは4000ドルなので、十分コンビニが出店できる素地はある。ただ、ベトナムの小売市場は、モダントレード(近代的商業店)が13%。ベトナムはまだ非モダントレード(伝統的商業店)が主流。

・神戸流通科学大学の上田教授(商学部)が学生と一緒に、ホーチミンで市民の買い物意識調査を行った。その結果、若者はコンビニが好きだが、年配者は伝統的な店が好きだということがはっきりした。年配者は、顔なじみの店で物を買うほうが良いと考える傾向がある。

・コンビニが周辺商業者へ与える影響も調査し、その結果、ファーストフード店には影響があったが、昔からある商店には影響がなかった。固定客の有無が影響したのだろう。

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(ヒアリング先と写真は、直接関係ありません)

・コンビニは、ベトナム全土で百数店舗しかなく、雇用にも地元商店街にも影響が少ない商業といえる。一方、ウォルマートなどのスーパーマーケットは、地元商店街には大きな影響を与える。コンビニは、地域産業と共存共生できる素地を持っている。ちなみに、スーパーマーケットのアジアの外資としては、タイのビックC、韓国のロッテが進出済みで、日本のイオンは2014年に開店予定である。

ベトナムは、モータリゼーションが発達中の国である。郊外に大きなショッピングセンターが開店してもも、バイクで移動するため沢山の買い物ができない。

ベトナムは間違いなく伸びる市場なので、現時点で事業スタートは苦しい局面はあると

思うが、新興国は最初に出た企業が必ず成功するという経験則から言っても、今、ベトナムに進出することの意義は大きい。人口が9,000万人いて、人口構成比も、半分が30代以下という、将来性のある市場であることは間違いない。10年以内には、1億人を超える。

 

【市場参入に関する注意点】

ベトナムには外資規制がある。2店舗目以降を作る場合、外資が入ると一切出店できない。そのため、現地にパートナーを確保して、現地資本100%の企業を設立し展開している。便宜上、日本企業とは別企業という形になっている。

・サービス業で事業をする場合の一番高いリスクは、法制度関係。法制度が不明確で申請手順などは決まっておらず、市政府担当者が決めてしまう。そのため、申請に時間がかかる。

・特に合弁会社は、中央政府が最終決定権を持つので、時間がかかる。申請受理だけで3ヶ月かかるケースもある。

・進出を考える企業には、現地パートナーを確保し、現地法人化を視野に入れた事業計画を考えること。また、現地パートナーと緊密に連携していくことが大切。

 

ベトナム人について】

ベトナム人は、現実主義、家族主義、形式主義の3つを持っている。蓄えることに興味がない。そのため、冷蔵庫がない。ローンは組まない。高額なものは、親族や家族からお金を借りて一括で買うことがスタンダード。

ベトナムでお金を持っている若者は、高校生。大学生はアルバイトしながら学校に通っている人が多く、中学生は小遣いが少ない。高校生は、一日5万ドン(200円)ぐらいお小遣いがある。中学生で1万ドン(40円)。おもしろいのは、手に持っているお金をキッチリ使い切ってしまうところ。貯金をしようという気がない。

 

ヒアリング 4 クールジャパン戦略事業関係企業

ヒアリング概要 クールジャパン戦略における現地の反応など

 

【クールジャパン戦略における取り組みについて】

事業展開している日本商品アンテナショップは、当社がクールジャパンとは別に展開している日本製品を扱った販売店舗である。ベトナムに日本スタイルを浸透させたいという思いから始めた。

・ショップが入るクレセントモールは、ベトナムで一番新しいショッピングモールで、アッパーミドルから富裕層までをターゲットにしている。

 ・店にくるベトナム人は、流行の日本製品だけでなく、伝統的な商品も好んで購入する傾向が見られる。そのため、京都など、日本らしい商品もそろえるようにしている。

・ショップのターゲット層は、アッパーミドルの若者。こちらの富裕層は日本人がびっくりするようなお金持ちで、アッパーミドルは平均より少し上の生活レベルをしている人たち。その層の若者をターゲットにしてマーケティングしている。プリクラが人気で、1回400円で写真を撮れる機械を置いている。

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・来店するミドルアッパー層以上の若い人は、1日500円ぐらいを使う。

・客層は、富裕層の子供が半分、ミドルアッパーが半分の状態。富裕層は、ショップの近くが富裕層住居エリアなので、みんな歩いてくる。それ以外は、バイクで30分ぐらいかけてやってくる。

・開店したばかりのショップなので、売り上げの動向は把握できていないが、週末はかなり賑わっている。

・中間層は、給料が入ったら店にきて、何か買うパターンが多い。穏やかな気候で農作物が収穫できる環境にあるので、給料を貯蓄する感覚がない。

ベトナムでの日本の存在感が薄い。日本は好きだけど、 ファッションもドラマも家電も韓国。このままでは、日本が忘れられてしまうという危機感から、事業展開を始めた。日本の文化、エンタメを通じて、日本のファンを作るための取り組みを進めているし、焼肉レストランも開業した。

 ・2012年11月20日、ホーチミン市7区リバーパークビルディング内に日本の都道府県の名産品や観光スポットを紹介する「日本物産館」をオープンした。これは経済産業省から「クールジャパン戦略事業」として受託し開設したもので、日本の文化を海外に広めることを目的にしている。

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 ・日本物産館は、高級住宅マンションの1~2階をレンタルして運営し、日本全国の物産を販売・紹介している。

・現在、徳島県と北海道が協力的で、徳島県はオープニングにあわせて阿波踊りのチームを送ってきてくれた。阿波和紙の製品も送ってきており、店頭で販売もしている。

・北海道は人気が高く、北海道物産展をやるとベトナム人が集まってくる。知名度の高さが一因と思われる。店頭では、秋刀魚の水煮缶詰や干物などを販売している。

・一番人気があるのが京都のコーナー。京都の風景のあるブースで写真を撮ることができるようにしているが、週末には沢山の人がやってくる。

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・2階のフロアーは、現在、屋台村にしようと準備中である。今後、どのようなフードコートにするか検討を進めていく。

ベトナムは人口構成を見ても若い人たちが多い国であり、消費意欲も高い。現在は不景気といわれるが、実感としては経済成長しつづけている様に思う。

・将来、この国で日本が存在感をいかに作っていくかは、日本ファンをどれだけ作っていけるのかにつながっていく。日本ファンが多くなれば、近い将来1億人を超えるベトナムの、旺盛な消費意欲をもつ消費者がいる市場で、日本企業の事業展開もしやすくなるだろう。そういう意味で、クールジャパン戦略のような取り組みは、日系企業の将来のためにも必要だ。

 

≪ヒアリング調査及び市内視察から判明した事≫

 ・裾野が狭い産業構造のため、部材調達に困難を生じる場合がある。小売、サービス業でも、日本で普通に手に入る物品の確保に苦労することもある。ファミリーマートの例のように、常識にとらわれない柔軟な発想と対応が必要だ。

・また、法制度の運用や解釈が不透明で、市政府役員の権限が強いことを踏まえると、単独での進出はやめた方がよい。現地パートナーをきっちり確保して、現地弁護士を雇うなど、政府役員と交渉できる体制づくりが不可欠といえる。社会主義国であるため、土地取得はできない。政府と期限リース契約をすることになる。場所や規模によって契約内容が変わるらしいので、このあたりに詳しい人材を確保しておく必要がある。

 

ホーチミン市内は、昔同様、多くのオートバイが道を占拠している。通勤・通学時間になると、バイクが主要幹線に溢れ出て、車は自由に身動きできなくなる。物流産業にとっては致命傷である。そのため、市内で事業をする場合、ジャストインタイムは不可能だと考えたほうがよい。

・小売は、シンガポール資本が開発を進め、最近になり郊外型ショッピングセンターが開店、休日は大勢の人でにぎわっているとのことである。テナントは、日本の中級クラスから庶民クラスのブランドが多く、値段は安くない。小売業で参入する場合、安価モデルを中心にした事業展開を考えがちになるが、施設の立地場所によっては高級品にシフトするほうが良い。