今、神戸港に、海上自衛隊の護衛艦「はるさめ」と練習船が寄港しています。
一般公開しているとのことでしたので、故山崎豊子氏の「約束の海」を携えて見学にいきました。
貴重な機会ともあって、多くのファンや家族連れが神戸港を訪れ、日常は閑散としている港が賑わっていました。
さて、この見学に「約束の海」を持って行った理由は、言うまでもありませんが、この小説が海上自衛隊を舞台に書かれているからです。
海上自衛隊の潜水艦「なだしお」が遊漁船と衝突した事件。昭和63年におこったこの事故を知らない人も多いでしょう。
この事故により、当時の防衛長官が辞任に追い込まれました。
この小説は、この事故をおこした潜水艦の乗務員を主人公に、「戦争と平和」をテーマに書かれています。
故山崎氏は、この小説を3部構成にするつもりだったようです。しかし、1部が刊行されたのち、天に召されました。
彼女の絶筆となったこの小説。丁寧な取材に基づいたリアリティ、それでいてドキドキされる物語の展開は、「沈まぬ太陽」と同様、ぐんぐん山崎ワールドに引き込んでくれます。
彼女の小説は、ご承知の通り、国家、社会、組織との関わり合いの中で、翻弄され苦悩しながらも強く生き抜く個人が描かれるのが特徴です。
今回は、将来を約束された潜水艦乗りが主人公です。巻末の「あとがき」に書かれていますが、今回の主人公は、「沈まぬ太陽」の恩地元のような実在のモデル(小倉貫太郎)はいません。
ただ、主人公の父親は、「二つの祖国」(NHK大河ドラマ「山河燃ゆ」の原作)の取材をしている中で故山崎氏が知った「アメリカでとらわれていた日本人捕虜」をモデルにしているようです。
故山崎氏は、第2部で、父の過去を求めて渡米した主人公を通じ、この「モデル」の生き様を描こうとしていたようです。
文庫本の巻末には、故山崎氏が死去前に書き上げた原稿の一部が掲載され、彼女はこの小説を、最終的にどう書き上げたかったのかを推測しています。しかし、彼女は、この巻末に掲載している原稿を一から書き直そうとしていたようです。ですので、誰にも、この小説の結末は、わからないのです。悔しいですが。
今日は、護衛艦を見ながら、この小説を読んでいました。
もうすぐ、新年度が始まります。入学、入社、異動、退職、転職などで、目の前の色んな不安や期待が入り混じる季節なので、国家とか戦争とか平和のことについて考える機会はないと思いますが、目の前の小さな課題から思考を切り離して高所大所から自分を見つめなおすために、この時期に、「約束の海」を一読されることをお勧めします。
しかし、護衛艦、思ったより大きかった。