ともほ じゃーなる

まいにち の ものがたり

旭川赤十字病院 脳神経外科・第一神経外科部長 脳卒中センター長・上山 博康(2月24日放送)

職人、それは、ただ技術(スキル)を使って商売をするだけに非ず。
現場で、眼前の事実に真摯に向き合い、ものの本質を見抜き、課題を、何のために、誰のために、どのように結論するのかを考えて、そのための解決策を十分に考え、全力を尽くして解決していく、それが職人だと思う。
 
今回、登場した上山医師は、まさにそのような人だ。

明治から昭和にかけて世に登場したいくつもの巨人の中に、渋沢栄一がいる。
官僚として、政治家としての将来が約束されていたのにもかかわらず、公の未来のため、善良なる日本経済の発展なくして、日本の繁栄はないとの確信から、経済界に飛び込み、世界に冠たる日本経済の礎を作った巨人である。
 
上山医師の中に、私は、渋沢公を見たような気がする。
 
医者は疲弊している
よく、小泉改革の悪影響の代表として取り上げられる、医療崩壊。診療報酬の改定から、医師数の縮減、医師会の開業医届け出制度の廃止など、確かに古くから続く悪習を断ち切った改革ではあっただろう。
しかし、よく考えてやったのだろうかと、当時も今も、思ってしまう。
ポピュリズムという言葉がある。劇場型政治という言葉も生まれた。
「民衆は女である」というのは、アドロフ・ヒットラーの有名な言葉である。
今、中東〜アフリカで起こっている、ツイッター革命も、まさしく劇場型である。
なにが言いたいのかと言えば、人は、刺激に弱く、刺激を受けると、思考が停止する。そして、その場の「流れ」に乗ってしまう。
第2次大戦だって、東条英機関東軍のことだけを言うが、戦争反対について当時の政府の口を封じたのは、ほかでもないマスメディアに煽られた民衆だった。
小泉改革は、古い日本の体質、体制を壊すのには、うってつけのイベントだった。
小泉改革は、民衆を煽り、民衆を国家機関を監視する市民警察に仕立て上げた。これにより、相当の膿出しもできたが、相当の犠牲もでた。その一つが医療崩壊だ。なにも診療報酬の事だけが原因なのではない。医師が次々と現場を離れた一番の原因は、魔女狩りをするマスメディアと、監視警察となった患者とその家族が、理性を忘れて医師を攻撃したからだ。
もちろん、そうでない市民は多い。しかし、小泉改革以降、医師は特権階級者だ、世間知らずだ、金もうけ主義だなどと、市民は普通に思うようになったのではないか?冷静に考えれば判ると思う。本当に、そうなのか?医師は、常に現場と繋がっている。寝ることだってできない、酒だって飲めない、もっというと、普通の人間としての生活が保障されない環境で生活しているのだ。想像できますか?家に帰ってもドクターコールの機械を、常に持たされているのだ。
この話をすると、必ず「仕方ない、医師の道を選んだ者の運命だ」という人がいる。
では、その運命に、市民はずーっと甘え続けていいのか、同じ人間である、医師は神様でない。
この話をすると、必ず「こっちは金払っているんだ、当然じゃないか」という人がいる。
しかし、そう言う人の払うお金は、たった2〜3割程度。しかも、医師不足が言われる医師は、皆、勤務医である。サラリーマンなのだ。診療報酬は、病院経営に充てられる。これだって、十分でないことは、あちこちの病院が潰れ出したことで判るだろう。
 
今、市民が一番にしなければならないこと。それは、冷静に、どこまでの医療が必要なのかを考え、どこまで皆で共助していくのかということを考えることだ。
 
もうじき、今の医療制度は崩壊する。そうなったとき、お金を出して医療が受けられるなら、まだましだ。一番、恐れるのは、医療機関自体が崩壊し、日本で高度医療、高度医薬品、高度技術を持つ医師がいなくなってしまう事だ。つまり、100年前の医療状況にもどるかもしれないという恐れだ。医療制度が崩壊するということは、世界で冠たるレベルの医療が、瞬時に日本から無くなってしまうということであろう。
 
それを、想像できるのか、私たち日本人は。
 
ガリーク
カンブリア宮殿では、出てこなかった話題をつなげてみる。
ガリークとは、大量漏洩のこと。
最近、個人情報や企業の秘密技術情報などの漏洩のこととして使われている。
この、メガリークが世界中で始まっているのには、いくつかの要因がある。
○ネット社会が浸透しすぎ、クリック一つで電子データーが世界中どこにでも送られるようになったため
○リークする情報が、高値で取引される市場ができたため
○企業競争としての相手企業の開発情報の価値が高まったため
ここで、問題にしたいのは、3つ目である。しかも、国家が絡んでくると、大変きな臭い。
新興国は、先進国に1日でも早く追いつき、追い越し、富を奪いたい。
しかし、技術開発にかける時間がない。
一方で、資金はフンダンにある。
ではどうするか。情報を金で買うのである。売ってくれるのは秘密を盗んできた人達からだ。
バブル以降、日本人の行動の大きな基準が、金になった。
これは、40代〜50代の日本人なら、少なからず持っている基準だ。
バブル経済の悪影響が、まだ、この世代には生きている。ミダス王の黄金の手を、未だに手放せずにいる。
また、20代〜30代の日本人は、幼稚なまでに金との付き合い方を知らない。しかたない、不景気な時代に生まれ、育ったのだから。
これが、新興国のターゲットになっている。つまり、何もかも金で奪われ始めているのだ、日本全土が。
金が基準になった人々に愛郷心なんてないだろう。目の前の金がほしいのだから。
上山医師が、「日本人は精神の国民だった」と言ったが、そう、「だった」のかもしれない。
 
今後、日本の医療制度が崩壊すると、日本の高度技術の多くが、人もモノも技術も、すべて新興国に買われてしまうだろう。
いつかの、イギリスを見ているようだ。
これを経験しないといけないのかもしれない、日本人は。
そして、何もかもなくなって、お金もなくなって・・・そして、その時に初めて、本当の幸せを探し始めるのかもしれない。
スローライフが、ここ数年で流行り出した。決して、バブル時のような煌びやかさはない。しかし、人間として心が豊かに暮らせる。物質から離れた、温かな精神の世界。
それが、日本の次のステージなのかもしれない。それが、良いことなのか、悪いことなのか、人によって判断は違うだろうけど。
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